奈良時代の静岡県西部は、遠淡海(とおつあわうみ=遠江)と呼ばれ、平安時代の文献には「浜津」または「浜松」の地名が見えます。
鎌倉時代に書かれた紀行文「十六夜日記」には、作者の阿仏尼が、浜松荘の「引馬」に泊まったという記述があります。
現在の浜松の地名は、1570年(元亀元年)に徳川家康が浜松城を築城し、その付近の地名を曳馬(引馬)から浜松に改め現在に至ったものです。
家康は、元亀元年から天正14年の17年間浜松に在城し、数々の戦いを繰り広げ、天下統一を成し遂げました。
江戸時代には、徳川譜代の大名が城主となり、幕府老中6人を輩出したことから、浜松城は、後に「出世城」と呼ばれました。
現在の浜松の中心街に当時の名残は少なくなりましたが、江戸時代の東海道の宿場町で本陣(武士や公家専用の宿泊・休憩施設)が6軒もあるのは箱根と浜松といわれるほどでした。
市東端の天竜川畔にある中ノ町(中野町)の地名は、東海道の京と江戸の中の町を意味していました。また、市西端の浜名湖畔の舞阪地区には東海道の舞阪宿がありました。
浜北区で見つかった1万8千年前の浜北人の人骨は、本州最古の人類の化石と確認されています。また中区の蜆塚遺跡には、静岡県内では例のない縄文時代の環状貝塚が発見されています。北区の弥生時代の遺跡一帯からは、銅鐸(どうたく)20点余が出土し歴史家の注目を集めています。東区の古墳時代中期の山ノ花遺跡からは、豪族が使ったとみられる貴人の傘の柄などの遺物が大量に出土しました。
これらのことから、浜松には古くから人々が定住し、活発に活動をしていたことがわかります。
江戸時代が終わると、明治4年の廃藩置県により、遠州地方に浜松県が誕生し、県庁が浜松宿におかれ行政の中心となりました(5年後に静岡県ができ浜松県は廃止となりました。)。
明治21年に市制・町村制が公布され、翌22年には浜松町が誕生しました。明治44年7月1日、市制が施行され、浜松市が誕生し、 現在の浜松市へと発展しました。
日本最初の西洋医学書「七科約説(ななかやくせつ)」は、浜松で出版されました。
米国ペンシルバニア大学ヘンリー・ハツホルン博士が1874年(明治7年)に出した医学書を、医学書翻訳の必要性を感じた浜松県立浜松病院院長の太田用成(おおたようせい)と、同僚の柴田卲平(しばたしょうへい)、虎岩武(とらいわたけし)が協力して翻訳、出版しました。
この実物は浜松市の文化財となっていて、浜松市立中央図書館に大切に保管されています。
浜松市は東海道の真ん中にあって、天竜川の水運にも恵まれ、江戸時代には綿織物、木材の集散地として栄えました。
明治以降は、産業革命の影響や政府の富国強兵政策によって、綿織物は手機から自動織機へと転換され、木材と機械を扱う技術が融合発展し、楽器産業、オートバイ産業が生まれました。日本を代表する自動車メーカーとなったトヨタ、ホンダ、スズキも浜松周辺で生まれ発展を遂げた企業の一つです。
また、テレビの父と呼ばれる高柳健次郎博士は、大正15年、浜松工業高等学校(現静岡大学工学部・当時助教授)で、世界で初めてブラウン管にイロハの「イ」を映し出すことに成功し、今日のテレビ時代を切り開きました。
その教え子が作った浜松ホトニクス株式会社は、現在も光電子増倍管の世界シェア90%を誇っており、CTスキャナやスーパーカミオカンデの心臓部に採用されるなど、光技術を通して世界の医療科学の発展に貢献しています。
このように、浜松の三大産業と呼ばれた綿織物、輸送用機械、楽器産業は発展と淘汰を繰り返しながら、新たな時代に向かって胎動を続けています。
文化面では、「楽器のまちから音楽のまちへ」を合言葉に昭和56年から進められている「音楽のまちづくり」が有名で、国際的に著名な浜松国際ピアノコンクールや、国内唯一の公立の楽器博物館「浜松楽器博物館」には世界中から集めた楽器が展示され、非常に高い評価を得ています。
浜松市の観光は、グルメスポットが多数ある中心街と、温泉と癒しの浜名湖周辺があります。
浜名湖はレクリエーション型の観光地といわれ、ヨット、水上スキー、ウインドサーフィン、水上バイクなどの水上スポーツや、百種類に及ぶといわれる魚類・水産物を対象とした釣り、潮干狩、伝統的なたきや漁など多彩な観光が楽しめます。
最近は、天竜川上流の森林レクリエーションや、楽器やオートバイ、うなぎパイなどの製造工程を見学する産業観光も注目を集めています。
明治時代から始まったウナギの養殖は全国に知られ、うなぎ料理店やスッポン料理店、これらを提供する宿が「かんざんじ温泉」を中心に立地するとともに、全国有数の農業都市として、セロリ、ジャガイモ、ミカン、メロン、次郎柿などの新鮮な野菜や果物も豊富です。
また、ウナギのほか遠州灘でとれた新鮮なカツオやB級グルメの「浜松餃子」も有名で、街中の駅周辺や鍛冶町、肴町、千歳町界隈には多くの飲食店が集まり、週末を中心に大勢のグルメたちでにぎわっています。
最近では、かんざんじ温泉を中心に、遠州灘が高級魚天然トラフグ漁獲高の全国の6割を占めている事実に着目した「遠州灘とらふぐまつり」(10月中旬から3月頃)や、遠州灘が天然ハモ漁のメッカであることに着目した鱧料理が話題になっています。